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~市民労働相談を振り返って~
~市民労働相談を振り返って~
1 はじめに
2018年4月9日、地元市役所内の労働相談室に、緊張した面持ちで初めて入った。中庭に面した明るい部屋だが、とても狭い。しかも、交通事故相談室の前を通過して、最も奥まった位置にある。電話機が置かれた机と書棚だけが設置され、相談者が机の向こう側に座れるよう2個の椅子があった。相談時間は、10:00~16:00(昼休み1時間を除く)の5時間である。
1週間前から、いかなる相談にも応じられるよう、労働関係法令はもちろん、社会保険関係、働き方改革関連など重要情報を整理し、タブレットに詰め込むなど準備を万全にして臨んだ。実は電話での会話が苦手なタイプ。それは、相手の顔が見えないため「耳」だけに頼らざるを得ないからである。だから、電話機を目にしただけで緊張する。
2 実際に労働相談をやってみると
初日は、電話による相談1件のみだった。ちょうど、4月1日から「無期転換ルール」が本格化し、それが背景にあったと思われる、労働条件の変更に伴う再契約の相談だった。
慣れない電話で事情を聴く。一方的に話す相手の主張をA4の紙に書き留める。
途中、質問をしながら確認する。相手は何を相談したいのか?何が困っているのか?どうしたいのか?なかなか掴めない。悪戦苦闘する。この間30分くらい。
ようやく全体像が分かると、再度質問を投げかけ、間違って受け止めていないかを確認する。
こちらに主導権が移ると、①助言②関係情報の提供③専門機関窓口の紹介などを行い、最後に激励の言葉を贈る。
相談者の声の調子が明るくなり、お礼を言われると天にも昇る思いになり、緊張感が一瞬にして消えるのが分かった。
しかし、まだ、安心できない。報告用の受付票に必要事項を記入して終了。
記入後「本当にあれでよかったのだろうか?」と反省しきり。
4週に1回の担当、1年間で12回担当した。相談件数は1日あたり1~4件。
平成31年4月現在、2年目にはいった。
3 ところで、労働相談員に何が必要か?
労働相談員に何が必要かと改めて問うと、それは、次の4つに纏められる。
①日頃の準備 ②人生経験 ③傾聴に徹する ④寄り添う姿勢
⑴ 労働問題に関する日頃の準備
例えば「働き方改革」に関連した情報など常に新しいものを吸収し、反対に基本的事項を繰り返し確認することが重要だと思う。
また、法律集である社会保険労務六法、労働基準法の手引きなど分厚い書籍を持ち込むのは現実的ではない。
そこで、相談に応じて直ちに閲覧できるよう必要な情報を整理・入力したタブレットを持ち込む。
なぜか心に余裕が生まれる。しかし、今まで相談中にタブレットを覗くことはなかった。
⑵ 人生経験
労働相談において、自分の人生経験が最も役立っていると思う。なぜならば、ほとんどの相談は、法律のみでは解決できないからである。
例えば、2018年8月、「定年(60歳)近くなったので、これからの生活が不安であり、どうすればよいか。」という相談があった。まずは、改正高年齢法について説明した後、自分の定年退職経験を話すと、相手はとても満足した様子だった。(会社がきちんとPREPセミナーをやってあげればいいのに!)
また、2019年1月、介護施設で清掃員として働いている60代の女性が、勤務時間の短い(遅く出勤し、早く退勤する)先輩女性と仕事の分担で悩んでいるという相談。
これに対し、先輩女性の出勤時にはきちんと段取りをし、退勤時には相互に作業箇所の現状確認を行うことなど、きちんと連携をとって、二人の仕事の成果に目を向けるよう助言した。
これは、かつて管理職としての経験があったから助言できたものであり、決して法律のみで解決できない。(それよりも職場の上司へ助言したい!「現場責任者を指名する」ことを。)
⑶ 傾聴に徹する
JADAのライフマネジメントカウンセラー養成セミナーで学んだことが役立っている。
特に、何を悩んでいるのか、どうしたいのか「自己探索」のため、傾聴に徹している。
ただ、来所相談であれば、非言語情報を含むすべての情報を得られるので、比較的容易に相手の相談を理解しやすいが、電話による相談は、言語情報のみのため苦労が多い。
⑷ 寄り添う姿勢
相談者は、精神的に落ち込んでいるのが普通。
しかし、勇気を奮って相談してきたことに、理解と敬意を示し、相手を決して否定せず、寄り添う姿勢を堅持する。
さらに、「開いた心を閉ざさないよう」「閉じた心は開かせるよう」細心の注意が必要である。
そして、何が悩みか? どうしたいのか? をきちんと把握して、それにあった対応が最も重要だと思う。
4 さいごに
職場におけるコミュニケーションが不足しているのではないかと思われる相談が多い。
よって、人間関係を構築・維持するマナーを守り、きちんと「報告・連絡・相談」を実行することがとても重要だと感じた。
また、相談内容に応じた相談窓口が数多く用意されており、そのほとんどが、公的機関により運営されていることが分かった。
一人世帯が多くなっている現在、一人で悩まずに、遠慮なく利用するべきだと感じた。