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国を揺るがした「宙に浮いた年金、消えた年金」に関わって
国を揺るがした「宙に浮いた年金、消えた年金」に関わって
平成30年3月14日、東北厚生局(仙台市)において開催された年金記録訂正審議会を最後に、平成20年以来10年間務めた委員を退任しました。
「5,000万件の宙に浮いた年金記録」、「消えた年金記録」などと大騒ぎになった平成19年、これらの問題解決のため、総務省所管で各都道府県に「年金記録確認第三者委員会」が設置されました。
当時、私は社会保険労務士として開業したばかりで、たっぷりと時間的余裕がありました。
翌20年4月、さらに委員会が増員されることになり、宮城県社会保険労務士会の推薦を受け、当時の総務大臣から委員を拝命しました。
平成27年、所管庁が総務省から厚生労働省へと変わり、各都道府県ではなく地方毎に「年金記録訂正審議会」が設置されました。私は、引き続き東北審議会の委員を務めました。
第三者委員会(厚労省所管の場合、審議会)には4つの部会が置かれ、1つの部会は、弁護士、税理士、社会保険労務士、地域型年金委員など4~5名の委員で構成され、事務局の調査員から調査結果の報告を受けた後、質疑及び審議をして、年金記録を訂正するかどうかを答申します。
当然ですが委員同士で意見が分かれる場合があります。
さて、平成20年の記録によると、委員会は毎週1回開催され、多いときは1回あたり8件の申立てを審議しました。(ここ最近では月1回、1~2件程度)
事前に審議資料に目を通しておかないととても申立て内容を理解できませんでした。
そのため、審議会の前日には多くの時間を費やしました。
当日の審議会では、調査員が1件あたり100~400ページにおよぶ資料に基づいて調査結果を説明する際、「確からしい」を発見するため「目」と「耳」をフルに生かして、「見過ごさない」「聞き漏らさない」よう努めました。
結果として、申立者のそれまでの「人生」を知り、それによって初めて結論を出します。そのため、いつも審議会終了時はぐったりでした。
印象的な事例を、記憶をたどりながら紹介します。
申立ての概要は、妻がいる80歳代の男性が、国民年金の保険料を納付したはずだから10か月分の加入と納付記録を認めて欲しいという内容でした。
当時、300月(25年)以上の受給資格期間がないと、老齢基礎年金を受給できません。申立人の記録はなんと290月で、10か月不足していました。
訂正が認められれば、老齢基礎年金を受給できます。申立てをしなかった妻も受給資格期間が不足し受給できません。
委員全員が何とか認めたい一心でもう一度資料を読み直し、調査員らに質問の嵐をあびせました。
「確からしい情報」は残念ながら得られませんでした。
結局、かなりの時間をかけて審議しましたが、「認められない」答申をせざるを得ませんでした。
その際、つい次のような発言しました。「年金受給できない奥さんの年金記録と合算すれば300月を超えますよね。
だったら、一人分の年金を給付してもよいのではありませんか。」「いいや、現在の法律では無理ですね。」と、
あっさりと事務局から反論され、あきらめざるを得ませんでした。
申立人にとって、苦労してお金を工面して納付したと思われる290月分の国民年金保険料は何だったのだろうか?
その後しばらく申立人のことが私の頭から離れませんでした。
最近、法改正により、受給資格期間が25年(300月)から10年(120月)に短縮されました。もっと早く改正されていればという思いがあります。
最近は年金記録訂正請求(当初は申立てという)件数が激減したため、平成26年から、対象エリアが東北全域に拡大され、月に1回程度の開催状況となりました。
請求件数が激減したことは、とりもなおさず年金制度に対する信頼が回復した証拠だと思います。
高齢者が豊かな人生を築くために不可欠な年金制度はとても重要です。
この10年間、委員として審議会(委員会)に参加できたことをとてもうれしく思うと同時に、年金制度の安定的な運営を心から願っています。
なお、審議会の詳細については、インターネットで総務省「年金記録確認第三者委員会」及び厚労省「年金記録訂正審議会」のページをご覧ください。
投稿内容に係わる経歴
19.9.13~ 三上社会保険労務士事務所を開業
20.4.1~22.3.31 増田寛也総務大臣より 年金記録確認宮城地方第三者委員会委員を任命される
22.4.1~24.3.31 原口一博総務大臣より同上委員を任命される
24.4.1~26.3.31 川端達夫総務大臣より同上委員を任命される
26.4.1~27.4.9 新藤義孝総務大臣より 年金記録確認東北地方第三者委員会委員を任命される
27.4.10~28.4.9 宮本真司東北厚生局長より 東北地方年金記録訂正審議会委員を任命される
28.4.10~30.4.9 坂本耕一東北厚生局長より 同上委員を任命される